足の「におい」と蚊には関係がある?

「足の裏アルコール」で蚊よけできるってホント?薬剤師が調べてみた

株式会社健栄 本部 薬剤師:大久保
目次

SNSなどで「足の裏にアルコールを塗っておくと、蚊に刺されにくくなる」という話を見かけることがあります。

「アルコールで蚊を遠ざけられるの?」
「それなら虫よけスプレーはいらないのでは?」

私も薬剤師としてこの話を聞いたとき、同じような疑問を持ちました。

そこで今回は、実際に研究や公的資料を調べ、「足の裏アルコール」について、どこまで分かっているのかを確認してみることにしました。

調べてみると、「蚊は足に集まりやすいのか」「足のにおいは蚊に関係するのか」といった興味深い研究が見つかりました。

では、「足の裏アルコール」は本当に蚊よけになるのでしょうか?

そもそも、蚊は本当に「足」が好きなの?

まず気になったのが、「蚊は足を狙いやすい」という話です。調べてみると、ヒトスジシマカが足に着地しやすいことを示した研究がありました。

2002年に発表された研究では、ヒトスジシマカ(ヤブ蚊の一種)が人の体のどこに着地しやすいのかを実験環境の中で調べています。 その結果、立っている場合も横になっている場合も、足への着地が最も多くなりました。 

一方で、蚊が着地した場所と体温との間には、明確な相関がみられませんでした。研究では、体から発せられるにおいなど、温度以外の要因も蚊の行動に関係している可能性が示されています。 

ただし、これは限られた人数を対象にした実験です。また、調べられたのは蚊が「着地した部位」であり、実生活で刺される場所や頻度をそのまま示したものではありません。 それでも、足に蚊が集まりやすい可能性を考えるうえで、興味深い結果です。

足の「におい」と蚊には関係がある?

足の「におい」と蚊には関係がある?

さらに調べてみると、「足のにおい」に対する蚊の反応を調べた研究も見つかりました。

2013年の研究では、マラリアを媒介する蚊の一種である Anopheles gambiae を使い、人によって足のにおいに対する蚊の反応がどのくらい違うのかを調べています。

実験では、参加者の足のにおいを付着させた素材を使って、蚊の誘引性を比較しました。その結果、最も誘引性の高かった足のにおいでは、最も低かったものと比べて約8倍多くの蚊が捕獲されました。

ただし、「人によって蚊に刺される回数が8倍違う」という意味ではありません。

この研究で調べられたのは、実験環境における足のにおいへの蚊の反応です。

また、対象となったのは Anopheles gambiae という蚊であり、日本で身近なヒトスジシマカやアカイエカなど、すべての蚊にそのまま当てはめることはできません。

それでも、足から発せられるにおいが、蚊を引き寄せる要因のひとつになり得ることを示す結果といえます。

どうして足のにおいが蚊に関係するの?

人の皮膚からは、汗や皮脂などに由来するさまざまな物質が出ています。

また、皮膚には「皮膚常在菌」と呼ばれる微生物が存在しています。汗や皮脂などに含まれる成分が皮膚常在菌によって変化することで、さまざまな揮発性のにおい成分が生じます。

足から発せられるにおい成分の種類や割合には個人差があり、その違いが蚊の行動に影響している可能性があります。

ただし、「足が臭い人ほど蚊に刺されやすい」と単純に考えることはできません。

私たちが「においが強い」と感じることと、蚊が特定のにおい成分に反応することは、必ずしも同じではありません。足から発せられるさまざまな物質の組み合わせが、蚊の誘引性に関係していると考えられています。

足を洗うと、蚊の反応は変わる?

1995年に発表された研究では、マラリアを媒介する蚊の一種である Anopheles gambiae について、足を洗うことで蚊が刺す部位の選び方に変化が見られたと報告されています。

この結果を見ると、「足のにおいを減らせば、蚊が寄りにくくなるのではないか」と考えたくなります。

ただし、その後の研究では同じような変化が確認されなかった例もあり、研究結果は必ずしも一致していません。また、日本で身近な蚊に刺される回数が減ると確認されたわけでもありません。

足を洗うことは、汗や汚れを落として清潔を保つためにはよいことですが、「足を洗えば蚊に刺されない」「足を洗うことが一般的な蚊よけ対策になる」とまではいえません。

では、石けんで足を洗う代わりに、アルコールで消毒した場合はどうなのでしょうか。

では、足の裏にアルコールを塗ればいい?

では、足の裏にアルコールを塗ればいい?

ここが今回、最も確認したかったところです。

アルコールには、皮膚表面の微生物を一時的に減らす作用があります。消毒用エタノールは、実際に手指や皮膚の消毒に使用されています。

そのため、

「皮膚の微生物が足のにおいに関係するのであれば、アルコールで微生物を減らすことで蚊も寄りにくくなるのではないか」

という考え方は、一見すると筋が通っているように思えます。

しかし、「皮膚表面の微生物を減らすこと」「蚊を引き寄せるにおいが変化すること」「実際に蚊に刺されにくくなること」は、それぞれ別の段階の話です。

今回調べた研究や公的資料では、足の裏にアルコールを塗ることで、蚊に刺されにくくなるという効果を裏付ける十分な根拠は確認できませんでした。

つまり、

  • 足のにおいが蚊の行動に関係する可能性がある
  • 足を洗うことで、特定の蚊が刺す部位の選び方に変化が見られた研究がある
  • アルコールには皮膚を消毒する作用がある

という話をつなげて、「足の裏にアルコールを塗れば蚊よけになる」と結論づけることはできません。

「理屈として考えられること」と「効果が確認されていること」は違う

今回調べてみて、特に大切だと感じたのがこの点です。

「足の裏アルコール」という話は、まったく関係のないところから生まれたものではないのかもしれません。

実際に、研究では次のような結果が報告されています。

  • ヒトスジシマカが足に着地しやすかった
  • 足のにおいに対する蚊の誘引性には個人差があった
  • 足を洗うことで、特定の蚊に対する誘引性が低下した

こうした研究結果から、「足のにおいを減らせば、蚊も寄りにくくなるのではないか」という発想につながった可能性はあります。

しかし、そこから「アルコールを塗れば蚊よけになる」とまではいえません。

研究で確認されていることと、そこから推測できることは、区別して考える必要があります。

蚊よけをするなら、効果が確認された方法を

蚊よけをするなら、効果が確認された方法を

では、実際に蚊に刺されるのを防ぐには、どのような方法がよいのでしょうか。

蚊よけを目的とするなら、ディートやイカリジンなど、蚊に対する忌避効果が確認された成分を含む虫よけ剤を、製品に表示された用法・用量や使用上の注意に従って使用することが基本です。

長袖や長ズボンなどで肌の露出を減らすことも、蚊に刺される機会を減らす方法です。

一方、消毒用エタノールを同じ場所へ繰り返し使用すると、皮膚の乾燥や荒れ、刺激症状を起こすことがあります。傷や皮膚トラブルのある部分には使用できない製品もあります。

蚊よけとしての効果が確認されていないため、足の裏へ繰り返しアルコールを塗ることはおすすめできません。

すでに蚊に刺されてしまった場合の正しいケアや、症状に合わせた市販薬の選び方については、こちらの記事でも詳しく解説しています。

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「足の裏アルコール」はホントだった?

今回、気になっていた「足の裏アルコール」について調べた結果は、

「足と蚊の関係を示した興味深い研究はあるものの、足の裏にアルコールを塗れば蚊よけになるとまではいえない」というものでした。

身近な健康情報には、研究によって確認されていることもあれば、まだ十分に確かめられていないこともあります。

「理屈としてはありそう」と思える情報でも、どこまで研究で確認されているのかを見てみると、結論が変わることがあります。

私自身、今回調べてみて、身近な健康情報をそのまま信じるのではなく、どこまで確かめられているのかを確認することの大切さを改めて感じました。

「これって本当?」
「薬局で売っている虫よけ剤は、どう選べばいい?」

そんな疑問があるときも、薬剤師に聞いてみてください。

健栄の薬局では、お薬だけでなく、市販商品の選び方や使い方、毎日の健康に関するご相談もお受けしています。

<参考文献>

Shirai Y.ほか「ヒトスジシマカがヒトの体で着地しやすい部位」(2002年)

Omolo M.O.ほか「人の足のにおいに対する蚊の誘引性と、その化学成分の違い」(2013年)

国立感染症研究所「蚊媒介感染症の診療ガイドライン」

de Jong R.、Knols B.G.J.「2種類のマラリア媒介蚊によるヒト吸血部位の選択」(1995年)

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